お ま じ な い
ふと、何気なく床に目を遣ったセツナは、見覚えのあるものが落ちているのを見つけた。


椅子から腰を上げてそれを拾う。


よれてはいたが、シワを伸ばせば元の形を取り戻した。


「はは、人形」


蹴った時にサクノの机から落ちたのだろう。


サクノの荷物は、サクノの親が既に引き取っていたから、机の奥に引っかかっていたか、他の誰かが作ったものだ。


考えずとも、どちらのものかなんてすぐに分かる。


「サクノ、何度も埋めてたんだ。恋なんて叶うわけないのに」


パタリ。


人形の上に雫が落ちる。


パタ、パタ。


雫は人形を濡らし、染みを広げる。


《でももし、それがセツナの名前だったら?》


落ちてくる水滴が止まった。


セツナは浅い息を繰り返しながら、人形からそっと視線を上げる。
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