お ま じ な い
「まず、この紙に好きな人の名前を書くんだ」


そう言ってセツナがクリアファイルから取り出したのは、人の形をした一枚の白い紙だった。


奇妙なのは形だけで、他にこれといって特徴はない。


少し前に見たアニメ映画の中では、人形(ひとがた)と呼ばれていただろうか。


「で、書いた紙を神社に埋めておしまい」


「それだけ?」


「簡単でしょ?ただ、他の人に好きな人の名前がバレちゃダメだから、好きな人の名前は梵字で書かなきゃいけない」


「私、梵字なんて書けないよ」


サクノが眉を下げると、セツナはチッチッと芝居がかった様子で人差し指を振った。


「そう言うと思って、調べてきた。これ、アラキの梵字ね。これ見て写せばいいから」


セツナは机の上にもう1枚紙を並べる。


うにょうにょと紙を這うような文字が『アラキタケヒロ』で7個。


ずいぶん用意が周到だ、とサクノは独り言ちた。


自分が思い切りの悪い性格だから、一気に畳み掛けるが勝ちだと思っているのかもしれない。


実際、その策に載せられているわけだが。


筆ペンで書いた方がそれっぽいかも、とセツナに言われて、サクノは書写の授業で使ってからそのままペンケースに入っていた筆ペンを走らせる。


セツナはその様子を嬉しそうに眺めていた。


「……できた。帰りに白水神社寄って帰ろうかな」


「なんだ、案外乗り気なんじゃん。あんなに渋ってたのに」


セツナに突かれて、サクノは耳を赤く染める。


不思議なもので、1度書いてみれば胡散臭さより期待の方が大きくなり、たった一枚の紙が特別なもののように思えたのだ。


らしくない、とは思いつつも、これから起こるかもしれないことに思いを馳せると、自然とサクノの心は弾んだ。
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