お ま じ な い
「……いやぁッ」


息が触れる距離に、全身ずぶ濡れの女。


セツナは短い悲鳴を上げて、その場にしりもちをついた。


女はサクノだった。


しかしセツナの知るサクノではない。


顔はこれでもかという程青白く、濡れそぼった髪が目元を隠している。


首元には掻きむしった跡がじゅくじゅくと血を流し、白い制服を赤く染め上げていた。


サクノは無表情でセツナに近づく。


セツナはサクノから逃げようとするが、力の抜けた足はまるで使いものにならない。


ただ床を掠めるだけだった。


《死んでから気が付いちゃった。シラユキサクノとシラユキセツナ、梵字こんなに似てるんだね。書き間違えたら、簡単にセツナの名前になる》


セツナはサクノの視線の先を辿る。


サクノはセツナが握る人形を見つめていた。


「……わ、私の名前を埋めたの……!?」


《1枚目は確かに私の名前だったと思うよ。でも2枚目は……どうだろうね?誰も知らない》


「……嘘だ」


《私もセツナに殺された時、そう思ったよ》


「殺してなんか」


《ううん。セツナは私を殺した》


サクノはさらにセツナとの距離を詰める。


サクノの髪から、制服から落ちる水が、セツナの頬を濡らした。


塩素の匂いが鼻に触れる。
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