お ま じ な い
「なんで勝手に動くの……?」


つい、と己の体が何かに引っ張られるように立ち上がり、セツナは思わず声を漏らした。


右足、左足、右足、左足。


足は交互に動き、窓際へと向かう。


「サク……ねぇサクノ!」


セツナは声の限り叫ぶ。


目を見開き、喉を鳴らしながら窓枠に手を掛けるセツナに、サクノは嬉しそうな表情を見せた。


セツナの体は窓枠を乗り出し、夏のねっとりとした風に晒される。


「や……だやだやだやだやだやだやだ!お、落ち」


《ね、ここ3階だもんね。落ちたら死んじゃうかもしれないね》


「ぅ……あ……ぁ……」


サクノはセツナのすぐ後ろまで来ていた。


ヒタヒタと水が血か分からない液体がセツナの背中を濡らす。


サクノの吐く冷気が首筋を撫でた。


《叶うといいなぁ……おまじない》


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


背中に強い圧を感じ、セツナの体は宙に舞った。


体がバラバラに砕けるような感覚が、セツナを包む。


ごぷり。


穴という穴から流れ出る液体に、セツナは息を詰まらせた。


教室の窓際には、光を映さないセツナの瞳を見つめて薄く笑うサクノの姿があった。
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