お ま じ な い
「シラユキ!」


静まり返った廊下の向こうから聞こえた声に、サクノはコクリと喉を鳴らす。


「ほら、王子様のお出迎え」


「王子様じゃないよ。それに今、どっち呼んだか分からない」


「どうだか」


セツナはスカートを払って立ち上がる。


サクノはやってきたアラキが手を差し伸べてくれたので、それに甘えてセツナにならう。


「ボールは当たらなかった?」


「は?ボール?」


セツナが眉を顰める。


「野球部のボールが窓に当たって割れたんだ。高等部が今部活やってるから」


この学校は中高一貫校で、中学生が補講を受けている間、高校生は部活をやっていた。


それで野球部の飛ばしたボールが、老朽化したネットを通り抜けて窓を割ったのだろう。


幸いサクノにもセツナにもボールは当たっていなかった。


「でも、シラユキは保健室行かないと」


サクノの腕のキズは深くはなかったが、範囲が広いために、鮮血が肘を伝って今にも床を赤く染めてしまいそうだ。


サクノは慌ててポケットから出したハンカチを左腕に当てる。


「俺、保健室付いてくわ」


「……イベント発生」


「なに?」


「なんでもなーい」


セツナは肩を竦める。


意味深げな視線を感じるのはサクノの気のせいではない。
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