お ま じ な い
「酷くなる前に行こう」


促されて、サクノはアラキと二人で保健室へと向かう。


「アラキ!」


途中、セツナに呼び止められて振り返る。


セツナは珍しく頬に朱を注ぎ、膝上5センチのスカートを両手で握り締めていた。


セツナの小動物を思わせる唇が空気を求めるように開いて、逡巡したように引き結ばれた。


「なんかあった?」


アラキの問いかけにセツナは答えない。


今度はサクノが名を呼ぶと、セツナはほんの一瞬複雑そうな表情をした後に、つん、と横を向いて口を開いた。


「どさくさに紛れに廊下でイチャつくなよ!」


「な……っ!分かっとるわ!つかそれだけで呼び止めたのかよ!」


「アラキならやりかねないし?」


「俺はどんなやつだよ!あーもう、シラユキ行こう!」


アラキに右手を取られたサクノは、後ろ髪を引かれながら歩き出す。


セツナの顔がいつもより暗く見えたのは気のせいだったのだろうか?


気になって、サクノは角を曲がる時もう一度だけ後ろを振り返った。


その時見えたセツナの横顔は、いつもと変わらず凛としていて、サクノは自分の思い違いだと思うことにした。
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