溺愛音感
「アイツ……何を考えてるんだ」
ぼそっと呟かれた言葉の意味がわからず首を傾げたら、いきなりどストレートな質問をぶつけられた。
「なあ、ハナ。おまえ、柾のことが好きか?」
「えっ」
「割り切った付き合いじゃなくて、真剣にあいつと向き合う気はあるか?」
「…………」
急にそんなことを言われても、何と答えていいかわからない。
どうやらマキくんのことが「好き」らしいと最近自覚したばかりだ。
立見さんは戸惑うわたしをじっと見つめ、優しく、しかし悲しげな笑みを浮かべた。
「ハナは、これまでの相手とはまったく毛色がちがうし、柾といい加減な気持ちで付き合っているわけではないと思うが……もし、あいつのことを好きなら、ゆっくり時間をかけて、関係を築いてくれないか?」
「あの……どうして、そんなことを……?」
「それは……」
立見さんは何かを言いかけたが、思い直すように首を振り、ニカッと笑った。
「柾にもハナにも、幸せになってもらいたいからだ」
「…………」
「スマホ貸せ。何か柾のことで困ったことがあったら、俺に連絡しろ」
マキくんと同じ、俺様の匂いがする立見さんに逆らうのは得策ではない気がする。
大人しくスマホを差し出したら、勝手に電話番号やアドレスを登録された。
「ハナは、小さくとも勇敢な番犬になりそうだ。柾をよろしく頼む……って、おい、わぁあぁっ! ちょっと待てぇーっ!」
(番犬って……)
立見さんは、視界の端にちょうど始まったカラフルな噴水ショーへ突撃していく息子さんを捉えたようだ。
悲鳴に近い叫びをあげて、小さな身体を追いかけ、かろうじて噴水の真っ只中に突入する前に捕獲する。
奥さんらしき女性は、やんちゃな息子を叱るでもなく笑って二人を迎えていた。
間に子どもを挟んで手を繋ぎ、浜辺へ向かう三人は、仲の良い幸せな家族の姿そのものだ。
(もしも、わたしがあんな風に並んで歩くなら、その横にいるのは……)
脳裏に浮かんだのは、元婚約者でも、人気俳優でもない。
柄にもなく、急いで戻って来たというように軽く息を弾ませ、目の前に立つ人。