溺愛音感
「ハナ! 無事か?」
(えっと……うん、他に当てはまりそうな人がいなかっただけ。いきなり子ども連れとか……わたし、想像飛躍しすぎ!)
やましいことはないはずなのに、なんだか目を合わせるのが気まずい。
「……見てのとおり無事だけど」
差し出された手に手を重ねた途端、引き上げられ、力いっぱい抱きしめられる。
「寂しくなかったか?」
傍から見れば恋人同士の甘い会話だが、内情はちがう。
「うん。お話してたから」
「話? まさかどこかの犬にナンパされたのかっ!?」
本人にしてみれば物騒な、他人にしてみればちょっと不機嫌な程度の顔で周囲を見回す。
「立見さんと会った」
「……立見?」
「家族で来てたよ。息子さん、かわいかった。奥さんも優しそうな人だった」
「嫁のあれは演技だ。立見は嫁の尻に敷かれてる」
「演技……」
「それでも、幸せそうにしているから、あれはあれで問題ないんだろうが」
「そうだね」
結婚にしろ、恋愛にしろ、他人からどう見えるかではなくて、本人たちがどう思っているかが一番大事なのだ。
自分の両親の関係を知った時、そう思った。