溺愛音感
ハナ、迷子になる
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動物園、テーマパーク、野球、サッカーの観戦……etc
大型連休中、飛び飛びではあるが休みを確保したマキくんは、何度かわたしを散歩(デート)に連れて行ってくれた。
行先は、全部わたしが行ったことのない場所。
動物園やテーマパークでは、童心にかえって楽しんだ。
野球、サッカーの観戦は、マキくんの解説を聴きながら楽しんだ。
マキくんとしては、温泉やハイキングなどにも行きたかったようだが、時間切れ。
連休が終わると、忙しさは加速した。
毎日のように、深夜に帰宅して、早朝から出かけて行く。
かろうじて、日曜日の休みは確保しているが、それもいつまで続くかわからない。
どう考えても睡眠時間が足りていないし、食生活も乱れている。
わたしの分は朝食とお弁当をきちんと作っても、自分自身は何も食べずに出勤することもあるし、夜は夜で会食や接待、会議で外食続きの模様。
ちゃんと食べているのかすら、怪しいものだ。
そんな毎日なのに、疲れたと口にすることも、そんな素振りを見せることも一切ないのがかえって心配だった。
どんなに多忙でも、わたしをお風呂に入れることとヴァイオリンを聴くことだけは欠かさないので、せめていい音楽を奏でて精神的な癒しを提供したいところだが、満足のいく演奏ができずにいる。
今日も、早朝から出勤するマキくんを見送って、即座にヴァイオリンの練習に取り掛かったが、あまりの自分の下手さ加減に激しく落ち込まずにはいられない。
あの日、マキくんのおまけリクエストを聴いてから練習を始めて、半月ちょっとが過ぎようとしているのに、ちっとも進歩を感じられなかった。
マキくんが九十九曲とは別にリクエストしたのは、Adagioで聴いた曲。
『無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第二番 ニ短調 五.シャコンヌ』
わたしの父の十八番で、わたしがいまも弾けずにいる曲だった。