溺愛音感

三口で平らげたわたしを見て、雪柳さんが目を丸くする。


「そんなに天ぷらが好きだったのか……」

「ううん、初めて食べた。でも、好きかも」

「柾にリクエストすればいい。料亭並みのクオリティのものが食べられるはずだ」

「そうする」


(マキくんが作るなら、絶対に美味しい……)


リクエストの参考にするため、雪柳さんの頼んだ天ぷら盛り合わせの種類をじっくり観察する。


(海老はマストでしょ。あの葉っぱみたいなのは何だろう……あとで調べよ。黒いのは、キノコっぽいなぁ。マイタケかな? 緑の棒みたいなのはピーマン、ナスかな……)


「ハナ、ほかにも気になるものがあるなら、食べていいぞ?」

「ほんとっ!?」


雪柳さんに促され、遠慮も忘れて気になっていた緑の葉っぱを食べてみた。

衣はサクサク、中身はパリパリとしっとりの中間。
食べた瞬間、爽やかな香りを感じる。

知っているようで、知らない味わいだ。


(なんだろ、コレ……?)

「それは、大葉だ。青じそともいう」

「しそ? 食べたことあるけど、ぜんぜんちがう。飾りとかスパイス的にしか使わないのかと思ってた……」

「マイタケも美味いぞ」

「マイタケ、香りがいいし歯ごたえもあって好き!」

「そうか。遠慮せずに食べていいぞ」

「ありがとう!」

「どういたしまして」


雪柳さんは、なぜかふっと笑ってわたしの頭を撫でた。


「あの……?」


< 129 / 364 >

この作品をシェア

pagetop