溺愛音感
「なんだろうな……柾が飼いたくなる気持ちがわかるような気がする……」
「…………」
言いたいことはいろいろあったが、抗議するのは食べ終わってから。
遠慮なくマイタケの天ぷらを味わう。
蕎麦と天ぷらを完食し、〆に必須だという蕎麦湯なるものを飲んで、不思議な美味しさに感動。
席を立って会計する段になり、二人分で徳用おせんべいを十個以上買えそうな金額であることを知り、慌てた。
「あ、わたしの分……」
「ご馳走すると言っただろう?」
「でも」
「傍から見て、ハナと俺くらいの年齢差で割り勘なんかさせていたら、よほどケチな男だと思われるのは必至だ。次からこの店に来づらくなる」
そこまで言われては、引き下がるしかなかった。
「……ごちそうさまでした」
お店を出てからも改めてお礼を言うと「満足できたか?」と訊かれたので、「もちろん!」と答える。
(意外とお腹がいっぱいだし……)
運ばれてきた蕎麦の量を見て、きっとカップラーメンのように、ちょっと物足りないくらいだろうと思っていたのに、かなりの満足度だ。
「ハナは、まっすぐ家に帰るのか?」
「はい」
「ところで、夜はどうしてるんだ? 最近、柾は帰るのが遅いだろう?」
「マキくんが遅い日は、デリバリーを頼むように言われているけど……今日はお弁当があるから、それを食べる」
「弁当? もしかして、柾が作ってるのか?」
信じられないという顔をする雪柳さんに、おずおず頷く。
「う……ふぁい」
「どうやって手懐けたのかと思っていたが……オーソドックスに餌付けか」
(え、餌付け……そのとおりだけど……)
マキくんの手料理を食べるようになって、食事には単に空腹を満たし、栄養を取る以上の意味があるのだと思うようになった。
彼がわたしのために、わたしのことを考えて作ってくれる料理は、どんな高級レストランのものよりも美味しく感じる。
何より、わたしが美味しいと言うたびに、嬉しそうな顔をするのを見ると、なんだか胸がふんわりと温かくなるのだ。
「ハナは……柾の料理が好きなのか?」
「大好き」
力いっぱい答えたら、わしゃわしゃと頭を撫でられた。