溺愛音感
「ハナさん。今日、このあと予定ありますか?」
「えっ? う、ううん、ないけど……」
久しぶりにシフトが一緒になった美湖ちゃんに訊ねられ、首を振る。
「早く帰らないと、柾さんに怒られたりします?」
「大丈夫。マキくん、いま出張中だから」
マキくんからは、時折生存を確認するメッセージが送られて来るものの、電話は架かって来ない。
メーガンさんから聞いた話を本人に確かめたいけれど、やっぱり電話で話すようなことでもないし、と迷っているうちに日付が変わり、結局「おやすみ」メッセージを送って終わることを繰り返している。
思い出せはしないが、空白は埋まった。
あとは、お礼や謝罪をして、当時といまのマキくんの本心を確かめて……
(確かめて、どうするつもり?)
助けてくれたことにお礼を言う。
迷惑をかけたことを謝る。
お見合いしたのは、その延長線上で。
マキくんの考えている「結婚」は、保護とか飼育とかに近いもので、世間一般で言うところの「結婚」ではないことを確かめて。
そんな「結婚」はできないし、したくないと訴える。
そして、
訊ねてもいいだろうか?
なぜ、あの街にいたのかを。
誰の葬儀に参列したのかを。
それとも、踏み込んではいけないだろうか?
彼がわたしの過去を知っていても、わたしが彼の過去を知りたいと思うのは、許されないことだろうか?