溺愛音感
「鶏肉なんだけど、ハナちゃん大丈夫? アレルギーとかない?」
「はい。なんでも食べられます」
「いただきまーす!」
スプーンを手にするなり、ガツガツ食べ始めるヨシヤの勢いに驚きつつ、まずはルーから味見する。
(カレー粉と……トマト?)
肉のうまみ、カレーの風味もしっかりあり、かつトマトの酸味がさっぱりしていて、何杯でも食べられそうだ。
(すっごく美味しい……)
つい黙々と口に運び、あっという間に完食したら、ミツコさんにくすりと笑われた。
「そんなに美味しかった?」
「あ……はい。とっても美味しいです。作るの難しそうですね?」
「そんなことないわよぉ。作るのはとっても簡単。野菜を切って、お肉に下味をつけて、電子レンジで作れるわ。野菜もたくさん入っているし、スパイスにはいろんな疲労回復効果もあるから、疲れ気味の時もオススメ」
(簡単……疲労回復効果……お疲れのマキくんにも、効き目があるかも?)
電子レンジで調理するなら、自分にも作れるんじゃないかとふと思った。
いつもマキくんにはしてもらってばかりだ。
たまには、わたしがマキくんのために何かしたい。
最近、とても忙しそうだから、ヴァイオリンを弾いて心を癒すだけでなく、身体も癒してあげられるなら、それに越したことはない。
「あの……ほとんど料理したことなくても……作れますか?」
「野菜さえ切れるなら……ううん、カット野菜を使えばそれすらしなくても作れるわよ」
「レシピ……作り方、教えてもらえませんか?」
「ハナちゃん、誰かに作ってあげたいの?」
「えっ」
いきなり図星をさされ、取り繕う言葉も思いつかない。
「もしかして……カレシ?」
「か、カレシじゃ……」
照れるようなことでもないのに、じわじわ頬が熱くなる。
「ミツコさん。ハナさんにはすっごいイケメンの婚約者がいるんですよぉー?」
美湖ちゃんがニマニマ笑いながら大きな声で耳打ちする。
「そうなの? ぜひ拝みたいわぁ。うちのヨシヤじゃ、目の保養にならないものね」
「おい、ミツコ! 男は中身で勝負するものだ!」
「その肝心の中身がないから、あんたはモテないんでしょ。彼女の一人でも連れて来てから、偉そうなこと言いなさい」
「…………」