溺愛音感
「そうか。よかったな? いい友だちもできたみたいだし」
大きな手がポン、と頭を軽く叩く。
「柾と上手くいってるようで安心した」
「上手く……いってるのかな」
「ん? 何か気になることでもあるのか?」
「気になる……というか……マキくんのこと、知らないなと思って」
「それは……柾の過去という意味か?」
「過去も、現在も」
「現在のことは、ハナが自分で確かめるしかない。過去のことは……本人に訊くのが一番だ。特に、柾のような立場だと、友人を装って悪意ある嘘や噂を吹聴する人間も寄って来るからな」
(やっぱり、直接訊くしかないか……答えてくれるとは思えないけど。答えてくれないということは、話したくないということで、引き下がるべきサインなんだけど……)
「着いたぞ」
「え?」
顔を上げれば、目の前には見慣れたエントランスがある。
ぐるぐる考えている間に、マンションに到着していたようだ。
「あ、ありがとうございました!」
慌てて車を降りようとしたら、「ハナ」と呼び止められる。
「相手のことをもっと知りたい、もっと理解したいと思うのは、普通のことだ。悪いことではない。素直に、思ったままを言えばいい」
「……?」
「柾は、自分のことを話すのに慣れていない。だから、ハナから訊いてやってほしい」
「う、うん……」
「ハナになら、きっとちゃんと答えると思う」
「そうかなぁ? いつも質問に質問で返されるけど……」
「照れくさくてじゃれてるだけだ」
「そ、かなぁ……」
(じゃれているというより、こっちがあしらわれているような……?)
とても太刀打ちできそうにないと肩を落としたわたしに、雪柳さんはニヤリと笑って悪知恵を授けてくれた。
「どうしてもダメそうなら、椿に訊くと言えばいい」