溺愛音感
ハナ、手料理に挑戦する
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『十八時頃には、家に着く』
マキくんからの帰宅を知らせるメッセージが届いたのは、朝九時。
それから訊きたいことをどうやって切り出すべきか頭を悩ませること、約八時間。
飼い主の帰宅まであと一時間と迫ったいまもまだ、作戦を決められずにいる――。
話したいことは、いろいろあった。
でも、まずは……N市民交響楽団の練習を手伝うため、週二回くらい夜に出かけたいことを伝える。
これは必須。
それから、空白の十日間について、世話をしてくれたお礼を言って、メーガンさんも知らないことがあれば教えてもらう。
わたしのことをいつから知っていたのか、確かめる。
わたしのファンだったという友人は、元カノなのか、ということも含めて。
そして、なぜ、あの時、あの街にいたのか訊く。
(うーん……一度に全部話すのは難しいかなぁ……)
どの話題も、訊いてすぐに答えが返って来るとは思えなかった。
そもそも、答えが返って来るかすら、怪しい。
(単刀直入に訊くのが一番手っ取り早い……けど、素直に答えるくらいなら最初から説明してくれている気がする。自然と話す気になるまで待つべき? でも、訊かずにいられるか自信ないし……そのうち、メーガンさんに会ったことバレそうだし……)
メーガンさんには、様子を窺いながら話すタイミングを計りたいから、わたしと会ったことはマキくんに当分言わないでほしいとお願いしたが、別ルートで漏れないとも限らない。
(でもやっぱり……明日に先送りしようかな? 今日は出張帰りでフライト疲れもあるだろうし。オケの練習を手伝うことだけ話して……)
(あ、でも、明日はきっと出張の間に溜まった仕事もあって忙しいだろうから、明後日のほうがいいかな?)
(いっそお休みの前の日がいい? あ、そっか。土曜日はオケの練習だ。それに……マキくんが日曜日休めるかどうかわからない……)
先延ばしにしたいのは諸々の事情を考えてのことで、怖気づいているわけじゃない。
そう自分に言い訳しながらまな板を見下ろし、悲鳴を上げそうになった。
(きゃーっ! な、な、なんでこんなことになってるのぉっ!?)