溺愛音感
ハナ、元婚約者と遭遇する
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マキくんの許可を得て、正式にオケの練習に参加することになった土曜日。
わたしを待っていたのは、理解に苦しむ友野先生の日本語だった。
「んー、ハナちゃん。ちょっと空気読もうか? モタついてる弦が悪いんだけどさ、ここはひとつ、餅つきの合いの手の要領で間合いを読みたいなぁ」
(も、餅つき……って、どうやるの? やったことないんだけど!)
「さっきのフレーズだけど、もうちょっとストイックに行こう。でないと、後半のドラマチックさが際立たないな」
(す、ストイック……?)
「ああ、そこっ! ハナちゃん、遠慮せずにもっと大胆に行ってくれていいから! 思わせぶりのチラリズムじゃなくて、バーン! ドーン! ってカンジ」
(チラリズムって何? ●●gle先生に確認したいっ! バーン、ドーンって、なに? 結局どうすればいいのよぉっ!?)
問い返してはっきりさせたいけれど、質問する暇はなかった。
友野先生が、徹底的に気になる個所を潰していくのについて行くだけで精一杯だ。
前回、見学した時には友野先生の指示はもっとわかりやすかったが、どうやらあれは見学者がいる時の「外面」というものらしい。
見学者から身内となったいま、「外面」は必要ないと捨て置かれている。
次々と繰り出される友野先生の要求に、団員一同がむしゃらに応え続けて二時間。
練習が終わった時には、とある日本のボクシングマンガのラストシーンが思い出された。