溺愛音感
「ただいまー、母ちゃん! 美湖とハナ連れて来たぞ! ミツコロッケ出してやって!」
「お邪魔しまーす!」
「いらっしゃい。美湖ちゃん、ハナちゃん」
「こんばんは、ミツコさん」
出迎えてくれたミツコさんの温かい笑顔にほっとした。
「練習はどうだった? ハナちゃん、三輪さんの代役してるんですって? 大変だったでしょう?」
「もー、ハナさん最高なんですよ! ミツコさん! 友野先生のワガママで意味不明な指示にもポーカーフェイスだし。ムチャクチャな要求にもさらりと応えちゃうし」
(美湖ちゃん……ポーカーフェイスじゃなくて、理解できずに固まってただけなんだけど。ムチャクチゃな要求にさらりと応えてたんじゃなくて、内心あたふたジタバタしまくってたんだけど)
「ところで、ハナさん、ミツコロッケ食べるのもちろん初めてですよね?」
「う、うん?」
「ミツコロッケは、旬の野菜を使うので具材がその時々で変わるんです。今夜の具材は何ですか? ミツコさん。わたし、枝豆のコロッケを予想してたんですけど……」
「残念! 今夜は新じゃがよ。枝豆はもうちょっと先、六月になるわね」
「じゃあ、その頃また食べに来なくちゃ!」
「その頃も何も、美湖は週五でうちの晩飯食ってるだろうが。ミツコ、こいつからちゃんと食費貰えよ?」
「何をケチくさいこと言ってるのよ、ヨシヤ。あんた、学生時代どれだけ美湖ちゃんのお世話になったと思ってるの? 無事高校を卒業できたのは、ひとえに美湖ちゃんのおかげでしょう?」
「そうよ! ヨシヤの分際で、恩を忘れるなんて百年早い!」
「その分、いま世話してやってるだろうがっ! 美湖っ!」