溺愛音感
「ま、マキくん……?」
そこまでイヤがられるなんて思ってもみなかったが、「する」のはOKでも「される」のはNGという人もいるだろう。
「ご、ごめんなさい。そんなにイヤだなんて思わなくって……あの……」
マキくんの顔を見たくて、身を乗り出し、覗き込もうとしたらギッと睨まれた。
「ダメだ、ハナ! 近づくな! そして、触るな!」
「え、ど、どうして?」
「襲うからだ!」
「…………」
「未だ三キロ増の目標に達していないのに、我慢できなくなる」
「べ、べつに、そこまで我慢しなくてもいいんじゃ……」
ヴァージンでもないし、(記憶にはないが)すでに一度シテしまっているから、記念すべき初夜というわけでもない。
三キロ増にしたって、マキくんが自分で決めただけのこと。
たとえば二キロしか増えていなくても、誰に迷惑がかかるわけでもない。
しかし、次にマキくんが放ったひと言で、即座に前言を撤回した。
「明日、せんべいを焼けなくなってもいいのか?」
「それはイヤ!」
「…………」
「マキくんがわたしを襲わないように、シャチを間に置いたらどうかな?」
「断る!」
「だったら、やっぱりくっついて寝る?」
低い唸り声が聞こえ、視界がぐるりと回って、馴染んだ温もりに包まれた。
がっちりとわたしを抱き込んだマキくんは、「はぁ」と切ない溜息を吐いて、諦めきれないと言うように呟く。
「やっぱり、一日五食にす……」
「し、な、いっ!」
「…………」