溺愛音感
通話を終え、目線を上げてびっくりした。
三輪さん、友野先生、ヨシヤの三人が、にやにやしながらこちらを見ている。
「アニキは相変わらず過保護だな」
「ハナをよろしくお願いします、なんて言われたら断れないよねぇ? 友野くん」
「ええ。で、どこにします?」
「僕の家でいいでしょ。奥さんも、ちょうどいないし」
「じゃあ、お邪魔します」
「さ、行こうか。ハナちゃん。友野くんが足になってくれるから」
三輪さんに促されるまま、駐車場に停められていた友野先生の車に乗り込んだ。
ドライブが趣味だという友野先生の車は、ルーフの低いスポーツカーでツーシーター。
サイズ的に、わたしが後部座席に乗ることになったが……
(せ、狭い……の、乗り心地悪すぎるぅ……)
「ごめんね? ハナちゃん。この車、彼女しか乗せないことになってるからさぁ」
「いえ、大丈夫です……」
「ごめんねぇ? 友野くん。僕が後部座席に行くべきなのに、助手席に座っちゃって」
「まったくですよ。でも、また腰を痛められてはかないませんから、俺のポリシーに反していても我慢します」
「腰痛ベルトをしてると、かなり調子がいいんだよ?」
「過信は禁物です! 本番直前にぎっくり腰再発させたら、マジ絞め殺しますからね? 三輪先生」
「それ、師匠に向かって言うこと?」
「俺、卒業演奏会当日に、食あたりの病み上がりでフラッフラだったところへ、『指揮者なら、何があっても演奏が終わるまで倒れるな! いや、倒れてでも指揮をしろ!』と三輪先生に言われたこと、忘れられないんですよねぇ……」
「ええ? 僕、そんな鬼畜なこと言ったっけ? 覚えてないなぁ。年のせいかなぁ?」
温厚そうに見える三輪さんだが、音楽に関しては厳しいのだろう。
どんなダメ出しの嵐が待ち受けているのかと思うと、怖い。
「都合悪くなると、物忘れがひどくなったフリするのやめてもらえます?」
「人生短いんだからさ、どうせ覚えておくなら楽しいことの方がいいよ? 友野くん。君、翳のある男って柄じゃないしね」
「大きなお世話ですよっ!」