溺愛音感
だから、疑いもしなかった。
よく晴れた日。
ヴァイオリンを持って彼の部屋を訪れた。
ワイン、ケーキ、小さな花束を買って。
毎年、彼が路上で演奏していたわたしに声をかけてくれた日には、必ず二人でお祝いをしていたから。
出会ったあの日のように、彼が目を輝かせてわたしの演奏を聴いてくれたなら、もう一度始められる気がした。
ちょっとしたサプライズのつもりで、事前に連絡はしなかった。
もしも彼が留守にしていたら、部屋で待てばいいだけだ。
使い慣れた合鍵で、ドアを開けた。
彼は、部屋にいた。
裸で、
その腕に美しい女性を抱いて、
わたしと彼が何度も一緒に朝を迎えたベッドの上に。