溺愛音感
ハナ、鳴く
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「ただいま……」
オケの練習を終え、ミツコロッケの枝豆バージョンを食し、ヨシヤと美湖ちゃんに送ってもらってマンションに帰り着いたのは二十二時。
玄関を開け、そこに磨き抜かれた靴がないことにがっかりする。
(……マキくん、今日も遅いのかな?)
スマホを確認するも、飼い主からの連絡はない。
松太郎さんの家でおせんべいを焼いてから二度目の週末を迎えても、マキくんは相変わらず休みなく働いていた。
とくにここのところ、わたしが眠ってから帰宅し、わたしが起き出す前に出勤するので、顔すら見ていない。
シャンプーもしてもらっていない(べつに、してほしいわけじゃないけど)。
ミツコロッケも披露できず、ヴァイオリンだって聴いてもらえない。
ちなみに、曲のストックはどんどん増え、現在軽くリサイタルを開ける曲数が仕上がっている。