溺愛音感
「……留学してから、連絡は取っていなかったのかな?」
「頻繁ではなかったと思うが、柾がむこうへ行く用事があれば、予定をやりくりして会っていたみたいだ。土産を貰うついでに飲んでいる時、久木はむこうで頑張っていると何度か聞いたことがある」
「そっか……」
納得して別れたと言いながらも、彼女との繋がりを断ち切れずにいたのは、気持ちがまだ残っていたからではないか。
いまも、その気持ちは消えることなく存在しているのではないか。
そう思うと、胸の奥のモヤモヤが一気に膨れ上がった。
立見さんは、話し疲れたのか、ぬれおかきをつまみ、お茶で喉を潤し、しばらく沈黙を続けたのち、ぽつりと言った。
「一年前も、会う約束をしていたらしい」
「……え?」
「久木は、柾と待ち合わせをしていた店で倒れたんだ」
「…………」
「柾は、商談が長引いて、約束の時間に三十分程度遅れた。久木が救急車に担ぎ込まれるところに到着して、そのまま同乗し……病院に着いてすぐに死亡が確認されたそうだ」