溺愛音感
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「ハナ……?」
「マキくんっ!?」
掠れた声が聞こえ、慌てて飛び起きれば、額に冷却シートを貼り付けたマキくんが、こちらを見上げていた。
昨夜、点滴が終わるのを見届けた立見さんが帰った後、マキくんがいつ目覚めてもいいように、ベッドの上にミネラルウォーターや替えの冷却シート、タオルなどを用意して待機していたのだが……。
夜中の三時あたりから、記憶がない。
「熱は? 具合は? 気持ち悪くない?」
一応、冷却シートを剥がして額に直接触れてみたが、熱っぽさはない。
「……熱は……たぶん、ない。……ハナ……」
「うん?」
「ハナ……」
マキくんは、寝起きのせいか、ぼうっとした表情のまま、わたしを見上げている。
「マキくん? 大丈夫?」
「水が……飲みたい」
「うん、お水あるよっ! はいっ!」
すかさずミネラルウォーターのペットボトルを差し出そうとして、寝たままでは飲めないことに気づく。
「マキくん、起き上がれる?」
「……ハナが、口移しで飲ませてくれるんじゃないのか?」
「え」
固まったわたしを見て、マキくんはくすりと笑って身体を起こした。
すっかり、いつもの俺様だ。
わたしの手からペットボトルを取り上げると一気に半分ほど飲み干し、深々と息を吐く。
「はぁ……生き返った。昨夜は、蓮がここへ?」
「雪柳さんと……なか、じゃな、えっと、立見さんも来てくれた」
危うく中村さんの名前を口にしかけ、慌てて言い換えた。
雪柳さんは嘘を言うような人ではないから、中村さんを部屋に入れたことを暴露しないほうがいい。
しかし、マキくんはむしろ立見さんの名前のほうに反応した。
「立見が、いたのか……?」
驚きの表情でわたしを見つめる。
「うん。点滴してくれたんだよ。マキくん、意識なかったからわからなかったかもしれないけど」
「そう、か……」
アンバーの瞳が揺らぎ、何かを堪えるようにその口元が強張る。
(マキくん……?)