溺愛音感
(な、何だったんだろ……)
洗えと言ったり、もういいと言ったり。
俺様の言動は謎だ。
とりあえず、身体が冷えてはいけないので、マキくんにはジャグジーに浸かってもらった状態で、髪を洗うことに。
大人しくされるがまま、気持ちよさそうに目をつぶる無防備な姿に、自然と笑みが浮かんでしまう。
マキくんがわたしをシャンプーしたがるのもわかる気がした。
その後、マキくんはいつものようにわたしのシャンプーをすると言い張ったが、病人だからと拒否し、自分で洗った。
しばらく二人でジャグジーに浸かり、十分身体が温まったところで、パウダールームへ。
椅子にマキくんを座らせ、ドライヤーで髪を乾かす。
鏡越しに見える、気持ちよさそうな顔がかわいい。
こちらもまた、マキくんがわたしの髪を乾かすことに執心するのがわかる気がした。
お風呂上り、病み上がりのマキくんが水分補給と同時にスマホをチェックしている間に、ベッドのシーツや毛布を取り替え、もうひと眠りできるよう整える。
「マキくん、準備できたよ」
「ん」
スマホをチェックし終えたマキくんは、リビングに置きっぱなしになっていた鞄から、タブレットを取り出そうとする。
「マキくんっ!」
「ちょっと待て。昨夜放り出したままの仕事を……」
「もう一度寝て、起きてからでもいいでしょ」
「そういうわけには……」
「まだ、朝の六時前だよ? マキくん」
「だが……」
「寝るのっ!」
強引に、その手からタブレットを取り上げた。
「ハナ!」
「雪柳さんと立見さんに……ううん、椿さんと松太郎さんに言いつけるよ?」
マキくんは、ギクリとした表情で懇願する。
「頼むから、それだけはやめてくれ」
「じゃあ、寝る?」
「……ハナも一緒なら」
マキくんが起き出す前に、前に食べさせてもらった病人食の「お粥」を作ってみるつもりだったのだが、実際寝不足ではある。
しばらく添い寝して、マキくんが寝入った頃に起きることにして、承諾した。