溺愛音感

バスローブから、部屋着兼寝間着に着替え、再びベッドへ戻ったマキくんは、いつものようにわたしを抱き枕にし、つむじに頬ずりする。


「はぁ……ハナの匂いだ。癒される……」

「マキくんと同じ匂いだと思うけど」

「ちがう」

「マキくんの場合、オヤジ臭がするってこと?」

「……ハナ」


抱きしめる腕に殺意交じりの力が込められ、命の危険を感じる。


「ま、マキくんっ! 冗談だからっ! ご、ごめんなさいっ!」

「言っていい冗談と悪い冗談がある」

「マキくんに、『オヤジ』は禁物ってこと?」

「ハナっ!」

「ちょっと確認しただ、け、うひゃっ……や、やめ、マキくん、やだぁーっ」


マキくんは、拘束するよりも確実な拷問方法――くすぐりの刑を実行する。

広いベッドの上を腹筋が痛くなるくらい笑い転げ回り、笑い過ぎて涙が滲み、息も絶え絶えになったところで、ようやくお許しが出た。


「今度『オヤジ』と言ったら、おやつのせんべいは抜きにする」

「えっ! やだっ!」

「イヤなら、反省しろ」

「ふぁい……」

「ハナ?」

「わかりましたっ! マキくんが本当はオヤジだなんて、二度と言いませんっ!」

「…………」

「マキくん?」

「…………」

(う……マズイ……体調が万全じゃないからか、いつもより不機嫌な気が……)


むっとした表情で睨む俺様の機嫌を直す方法を必死に考え、「あっ」と思いつく。

向き合って横たわっているので身長差はないし、距離も近い。
素早く腕を伸ばし、マキくんに抱きつくようにして、キスをする。

前回の反省を踏まえ、唇を重ねるだけのライトなキスだ。

でも、ただ重ねるだけでは子どもっぽい。
上唇とした唇を交互に食む。

マキくんはびっくりしたようにアンバーの目を見開いていたが、きゅっと口角が上がる。


(よかった……嬉しそう)


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