溺愛音感
ここは、誰かに訊くのが一番早いと思い立ち、迷わずミツコさんに電話を架ける。
『もしもし、ハナちゃん? どうしたの?』
お店の営業時間中だから、すぐには繋がらないだろうと思いきや、ツーコールで応答してくれた。
「こ、こんばんは、ミツコさん。あの……ちょっと訊きたいことがあって……いま、大丈夫ですか?」
『大丈夫よ。なぁに、訊きたいことって? お料理のことかしら?』
「はい。あの、お粥を作りたいんですけど、何で作ればいいのかわからなくって……」
『お粥? ハナちゃん、具合が悪いの?』
ミツコさんの心配そうな声に、慌てて否定する。
「いえ! わたしじゃないんですけど、ま……あ、あのぅ……そのぅ……」
マキくんが、と言いかけて「秘密」だったと思い出し、口ごもる。
ミツコさんはそんな私の様子に突っ込むことなく、「そうなの。大変ね」と呟いたきり、しばらく沈黙していた。
が、突然やけに明るい声で「じゃあ、用意して持って行くわ」と言い出した。
「え?」
『材料をそろえて、できる限り下ごしらえして三十分後くらいにお伺いするわね』
「え、あのっ、ミツコさ……」
わたしが何かを言う前に、ミツコさんは電話を切ってしまった。
(み、ミツコさんが来る……のに、この格好はマズイよねっ!?)
とりあえず、物音が響かないよう寝室のドアをきっちり閉め、慌ててシャワーを浴びる。
部屋着にしているジャージ素材のロングワンピースに着替え、髪を乾かすのももどかしく、タオルでガシガシ拭きながら、落ち着かない気持ちでリビングをウロウロ。
電話をしてから、三十分を少し過ぎたところで、スマホが鈍い音を立てて震えた。
ミツコさんから、マンションのエントランスに着いた旨のメッセージが届いている。
ロックを解除し、部屋の階数を返信してから玄関のドアを開けて待つこと数分。
ほどなくして到着したエレベーターから降り立ったミツコさんは、小さな段ボール箱を抱えていた。
「こんばんは~、ハナちゃん」