溺愛音感
ミツコさんがくれたレシピは、いつもどおり図解付き。極力ひらがなとカタカナで書かれていて、とてもわかりやすい。
まずは炊飯器に「お粥」を作る機能がついていることを確かめる。
いままで気にしたことがなかったけれど、「おこわ」とか「すしめし」も作れるようだ。
そのうち、挑戦してみようと思いながら、「お粥」モードでスイッチを入れる。
できあがるまでの時間を使ってスープを作り、試しにレモンバームティーも淹れてみた。
レモンの爽やかな香りと味が、気分をリフレッシュしてくれ、疲れた時にもよさそうだ。
そうこうしているうちに「お粥」ができたので、ミルクパンに牛乳と一緒に入れて温める。
最後にチーズを投入し、塩で味を調えて、黒コショウを軽く振って完成。
これで、マキくんがいつ起きて来ても大丈夫……と思った矢先、本人が現れた。
「いい匂いがする……何か作ったのか? ハナ」
眠そうな表情のせいで、童顔がさらに幼く見える。
「かわ……っ! え、えっと、ミツコさんが差し入れてくれたもので、チーズのお粥と野菜スープを作ってみたの。食べる?」
思わず、「かわいい」と言いそうになって、踏み止まった。
(あ、危ない……マキくんに「かわいい」は禁句だって、松太郎さん言ってたのに)
「ミツコ? ここへ来たのか?」
「うん。でも、部屋にも上がらずに帰ったよ。お茶くらい飲んでいってもらおうと思ったんだけど……」
もしかして、それすらもイヤがるかもしれないと思ったが、マキくんは「はぁ」と溜息を吐いた。
「忙しいだろうに、気を遣わせてしまったな……。お礼がてら、今度こそ店に顔を出さなくては」
どうやら、マキくんにとって、ミツコさんはすでに信頼できる人として認識されているようだ。
ほっとし、二人で一緒にお店に行けるなんて嬉しくて、つい張り切って返事をしてしまう。
「うんっ! きっと、ミツコさんも喜んでくれるよ!」
「ミツコレシピなら、味にまちがいはないだろう。食べたい」
「すぐ用意するね?」