溺愛音感
ダイニングテーブルに着いたマキくんは、顔色もいいし、機嫌もいいようだ。
スープとお粥、桃を並べると嬉しそうに顔を綻ばせた。
「美味そうだ」
ミツコさんがくれたレシピを見て、味を確かめていたのは最初のひと口、ふた口。
その後は、黙々と食べ進め、洋風のチーズ粥はおかわりした。
デザートがほしいと言われて出した桃には瑞々しくて甘いと顔を綻ばせ、レモンバームのお茶も気分がすっきりすると気に入った様子。
旺盛な食欲が満たされたマキくんは、ご機嫌だった。
「それにしても……ずいぶん料理の腕が上がったな? ハナ」
自分でも、「お湯を注ぐ」か「温める」の二択だった頃と比べると格段の差だと思うが、面と向かって褒められると照れくさい。
「や、でも、どれも簡単だし。ミツコさんのレシピどおりに作ってるだけだし……」
「ほとんど料理をしたことがないのに、短期間でここまでできるようになるなんて、すごいことだぞ? 料理は面白いものだと思っただろう?」
「うん。確かに、料理の楽しさもちょっぴりわかるようになったけど……。でも、自分が食べるためだけなら、たぶん作ろうとは思わなかった。マキくんに食べてほしいから、作ってみようと思ったんだよ」
自分が食べるなら、美味しさよりも手軽さを選んでしまうのは、いまでも変わらない。
食べてほしい人がいるから、頑張って作ろうと思うのだ。
「どうしてハナは……」
「どうかした? マキくん。具合悪い?」
「いや……」
しばらく何事かぶつぶつ言っていたマキくんは、気を取り直すようにお茶を飲み干して立ち上がった。
「……シャワーしてくる」
「ひとりで大丈夫? お手伝いする?」
「いや、いい」
なぜかマキくんはほんのり顔を赤くし、逃げるようにバスルームへ消えた。