溺愛音感
三曲弾き終えたマキくんは、じっとわたしを見つめて問いかけた。
「ハナは、俺に訊きたいことがあるんじゃないのか?」
何から訊くべきか定まらないままに、コクリと頷いた。
「瑠夏のことか? メーガンから聞いた話か? いや……その両方か」
そのとおりだけれど、どうしてこのタイミングで言い出したのか、謎だった。
そんな気持ちが、顔に出ていたのだろう。
マキくんは、ふっと自嘲の笑みをこぼして種明かしをした。
「熱で意識が朦朧としていたが、立見とハナが話している声が聞こえたんだ。あの時……中村もいただろう?」
「……あ、れは……」
「それだけじゃない。ジイさんも、ハナに悪いことをしてしまったと柄になく詫びて来たし、メーガンからもハナとちゃんと話せとメールが来た」
「…………」
「俺から言い出すこともできたが、ハナの心の準備ができないまま、話すのは避けたかった。だから、ハナのほうから訊きたいと言い出すのを待とうと思ったんだ。それが……」
マキくんは、「思った以上に我慢強くて、予想が外れた」とぼやいた。
「ハナは、自分のことより相手のことを優先させられるくらい、強くて優しい。でも、その分ひとりで抱え込み過ぎだ。いまだって、俺の体調が回復するまでは何も訊かずにおこうと思っていたんだろう?」
「それは……具合が悪い時は、体調を整えるのが一番大事だし……わたしは、強くも、優しくもないよ」
「強くて優しくなければ、自分のことを差し置いて、他人のためには泣けない」
「……?」
どういう意味かわからずに、首を傾げるわたしに、マキくんは泣きそうな顔で笑った。
「あの時……ハナがずっと泣きやまず、俺から離れたがらず、メーガンのところへ行こうとしなかったのは、相馬和樹のせいじゃない。俺のせいだ」
「え……?」