溺愛音感


「マキくん。もう一曲、弾いてもいい?」


唐突に話を変えたわたしに、マキくんは驚いた顔をしたが、頷いた。




曲名は告げなかった。




目を伏せ、最初の音を奏でた瞬間、息を呑む音が聞こえる。

彼が、どんな表情で聴いているのか、弾き終えるまで確かめるつもりはなかった。


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