溺愛音感
音が消え、しんと静まり返った空間に、震える息の音だけが響く。
目線を上げ、恐る恐るマキくんの様子を窺う。
両手で顔を覆い、俯いている姿に何と声を掛ければいいのか、どうすればいいのかわからずうろたえた。
(と、とりあえず……)
ヴァイオリンをしまい、しばらくウロウロした後、近づく。
「……マキくん」
手を伸ばし、そっと頭に触れる。
ためらいながらも、優しく撫でてみるが微動だにしない。
放って置くことはできなかったし、顔を覆う手を引き剥がすこともできなかった。
だから、その頭ごと胸に引き寄せた。
見られる心配がなくなったからか、マキくんは顔を覆っていた手を外し、代わりにわたしをぎゅっと抱きしめる。
マキくんは、ほんの少しだけわたしの胸元を濡らし、何度か深呼吸した後、身体を離した。
湿ったまつげと少し赤くなった目が、涙の気配を残している。
「寝る」
そう宣言し、わたしを担ぎ上げてパウダールームへ向かった。
顔を洗い、歯磨きをして、寝室へ。
ひっくり返ってお腹を見せているシャチをベッドの奥へ押しやり、並んで……というより、抱きかかえられた状態で横たわる。
向かい合い、わたしの胸に顔を埋めたマキくんは、ぼそっと呟いた。
「……三キロ増じゃ、足りないな」