溺愛音感
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(まあ、本当の目的はヨシヤの恋愛事情を確かめることではないんだろうけど……)
友野先生が言っていたように、スポンサーの話を進めるかどうかを考えるためにも、練習の様子や実力を自分の目で確かめたいと思っていたはずだ。
とりあえず、第一楽章を通しで演奏したあとは、いつも練習に参加している人とそうではない人のギャップを埋めるべく、徹底的に詰めていく作業になる。
一時間なんて、あっという間だ。
本番までひと月ちょっとしかないので、のんびりしている暇はない。
友野先生の「じゃ、休憩にしよう!」の声で、それまで楽器の音で埋め尽くされていたホールに、一気に笑い声や話し声が溢れかえる。
席を立つひと、水分補給するひと、まちまちだ。
わたしも、三輪さんとマキくんのところへ向かう。
「お疲れ様、ハナちゃん」
「座れ、ハナ。俺は、友野先生と話がある」
三輪さんの横にいたマキくんが立ち上がり、自分の椅子を譲ってくれた。
水を飲みながら団員たちと談笑していた友野先生にマキくんが声をかけ、二人でホールを出て行く。
その様子を見送っていたら、三輪さんがくすりと笑った。
「飼い主にお留守番を言い渡された犬みたいだよ? ハナちゃん」