溺愛音感
ハナ、元婚約者と対峙する②


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マキくんが休暇を取ったこの一週間。

わたしたちは、一緒に暮らした約二か月ちょっとの間で、ベッドの上で過ごした時間を含め、一番濃密な時間を過ごした。


一緒に演奏したり、お互いのお気に入りの音楽を聴き合ったり。
一緒に料理をしたり、チェスをしたり。
大画面のテレビと高性能のサウンドシステムで、臨場感満点の映画を楽しんだり。
散歩ついでに、近所の大きな公園でピクニックをしてみたり。

これといったイベントもなく、まったりゆったり過ごし、たくさん話をすることに時間を費やした。

知れば知るほど、もっと知りたいことが増え、話せば話すほど、もっと話したいことが増えた。

二十四時間。毎日一緒にいても足りないと思うほどに、話題は尽きなかった。

マキくんは、学生時代のことを話すついでに、「久木瑠夏」のことも話してくれ、彼女と演奏した曲を一緒に弾いた。

わたしも、和樹との思い出や父と音羽さんの一風変わった関係のことを話したりした。

もちろん、音楽談義もたくさんして、曲について、作曲家や演奏家について、意見をぶつけ合い、新たな発見を繰り返した。

相手のことだけでなく、自分自身についても。

一枚ずつ、視界を遮るヴェールが取り払われ、長い間、ぼやけていた輪郭がはっきり、くっきり描かれていくような感じがした。

空白の時間を埋める記憶を取り戻せなくとも、わたしとマキくんの関係は変わらないだろうと思った。

彼にとって、わたしがどんな存在かは窺い知れない。

でも、わたしにとってマキくんは、誰よりも近くにいてくれて、誰よりもわたしのことを理解してくれている――そんな存在になっていた。


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