溺愛音感


確かに、わたしはマキくんにプロポーズしようと考えていた。

しかも、ただのプロポーズではない。
公開プロポーズだ。

いまのわたしにできる精一杯の約束を形にしようと思ったら、それしか考えつかなかった。

中傷記事を払拭するくらい、インパクトがあって、かつ「幸せ」な話題を作り出すためにも、一石二鳥。

ゴシップは、「幸せ」なものより「不幸せ」なもののほうが売れるが、インパクトのある「幸せ」ならいい勝負になるはずだ。

だから、文字通りのシンデレラストーリーを創り上げてしまえば、しかもそれが王子様ではなく、シンデレラからの逆プロポーズなら、インパクトは十分。

余計に叩かれる可能性もゼロではないが、一種の賭けだ。

幸いなことに、もうすぐ日本を離れるから、とてつもない恥ずかしさからも、執拗な追及からも逃がれられる。

万が一、億が一、プロポーズを断られたとしても、折れた心を立て直すまで、マキくんとも距離を置ける。


「プロポーズ?」

「見かけ倒しの俺様で、ヘタレなカレシに逆プロポーズするそうなの」

(見かけ倒し……ヘタレ……)


上品な笑みと共に言われると、うっかり聞き流してしまいそうになるが、かなり酷い言われようだ。


「もしかして、それで指輪……相当、セレブな彼なんですね?」


マキくんと同じ家に育った彼女は、花梨さんと同じ。お嬢様だ。
高級ブランドの名前も熟知しているにちがいない。


「そうね。椿さんと同じくらいセレブかも」


くすくす笑う花梨さんは、マキくんが妹さんを溺愛していることも、わたしのことを妹さんに内緒にしていることも知っている。


(完全に、面白がっている……)

「わたしも兄も、セレブじゃないですよ?」

「そう言えてしまうのが、セレブってことなのよ。ね? ハナさん」

「えっ! あ、は……い」


せっかく雰囲気のいいカフェで、美味しいカフェラテを味わっているのに、ちっとも落ち着けない。

(心臓がバクバクするから、やめてほしい……)

と、そんなことを思っていたら、怪訝そうな声で呼ばれた。


「……ハナ?」


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