溺愛音感
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(ランキング一位は、シンプルに『結婚してください』かぁ……)
音羽さんの練習部屋――ピアノルーム。
オンラインでリクエストを演奏するために、マキくんからの連絡を待つ間、スマホで人気のプロポーズの言葉を検索してみた。
映画やドラマのようなロマンチックなプロポーズから、ごく普通のものまで。
世の中には、いろんなプロポーズのシチュエーションがあふれているが、大事なのは二人の関係や気持ちなのだという当たり前の結論に至った。
そして、相手の気持ちが同じであることを確かめずに、サプライズすぎるプロポーズは失敗する可能性があるということもわかった。
(ってことは……)
公開プロポーズでこっぴどくフラれる、という不吉な未来を思い描きそうになり、慌てて頭を振って追い払う。
明日は、いよいよ決戦の日――文字通り人生を賭けたプロポーズを決行する日だ。
マキくんと花梨さんの尽力により、あの記事が大手出版社のゴシップ誌に載ることはなかった。
しかし、インターネット上で拡散されるのはやはり止められなかった。
その結果、かつてのわたしの動画や過去の記事がインターネット上に再アップされ、『KOKONOE』本社やマキくんのマンション周辺に、パパラッチらしき人物たちがちらほら出没するようになってしまった。
追いかけ回されるほどではないけれど、これ以上騒ぎを大きくしたり長引かせたりしないよう、わたしは女帝の城に居候し、マキくんから距離を置いている。
しかし、明日の『KOKONOE』の本社ビルで開かれるミニコンサート。
社内外の人が集まるその場で、マキくんにプロポーズするつもりだった。
すでに、マキくんを除いた関係各位に根回し済みだ。
オケのメンバーには、美湖ちゃんから事情を話してもらい、快諾をいただいてある。
松太郎さんにも許可をもらったし、当日、マキくんを確保してコンサートへ連れて来てもらうよう雪柳さんにも頼んである。
コンサートツアーの最中だが、たまたまスケジュールが空いている音羽さんも協力してくれることになった。
ちなみに、女帝は国内ツアーの真っ最中で留守にしていたのが、次の公演まで間が開くということで、三日前にひょっこり帰って来たのだが……。
家にお邪魔しているわたしを見た途端、「結婚する前から出戻り?」と言い放った。
わたしがマキくんと同棲中だということは、わたしたちが一緒に暮らし始めてすぐに勘づいた松太郎さんから報告を受け、とっくに知っていたらしい。
松太郎さん曰く、「溺愛してもいい相手が傍にいるとき、柾は生き生きしとるからすぐにバレるんだ」そうだ。
それはともかくとして、あとは、素直に頷くとは思えないマキくんを、いかにして頷かせるかが問題だ。
(マキくんの場合、雰囲気に流されて、とか、感情が昂ってつい頷く、とかなさそうだし……)
理詰めで結婚の利点を説明し、頷かせるなんて無理難題のような気がする。
(いっそ、こっそり婚姻届出しちゃう? 前に、準備済みだって言ってたし? 本当に準備していたかどうかは疑わしいけど……)