溺愛音感


一度聴いたら忘れられない、特徴のあるメロディが耳の奥で鳴り響き、

無差別に切り取られたセピア色のシーンが脳裏に次々と浮かんでは消えていく。

古い映画のフィルムを見ているような不鮮明な映像は、目を凝らしても、はっきりと像を結ばない

ぎゅっと目をつぶり、ポン、とピアノを鳴らすような優しい音がして、目を開けた瞬間、眩い光と共に鮮明なイメージが浮かんだ。


ピアノの前に座っているのは、マキくんで。

その傍らに立ってヴァイオリンを弾いているのはわたし。


見つめ合い、

呼吸を合わせ、

初めて、二つの音が重なった瞬間――、




その記憶が、胸を震わせた。



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