溺愛音感
ハナ、俺様に飼われる
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「俺のように完璧な飼い主に拾われるなんて、滅多にないことだぞ? 光栄に思え! ハナ!」
(はいはい、おっしゃるとおり……)
俺様発言も、寝起きのぼんやりした頭なら、軽く聞き流せる程度の衝撃で済む。
(それにしても……眼福……)
朝日を浴びて輝く髪やアンバーの瞳は、金色がかっていて、とても美しい。
しかも、かなりご機嫌麗しいようで、あひる口の口角は更にきゅっと上がり、目尻には笑い皺ができている。
いわゆる童顔。
そして、年齢不詳。
(これで三十五歳。ひとのことは言えないけど、どう見ても二十代半ば……そして……お見合いの時とは別人のよう……)
「どうした? ハナ。そんなに見惚れるほど、俺はイイ男か?」
普通の人がそんなことを口にしようものなら、冗談と笑い飛ばすかドン引きするところだが、俺様王子様の場合は事実なので自然と頷いてしまう。
「そうか! ハナの審美眼はまともだな」
(これを「イケメン」と言わなかったら、イケメンハードルが高層ビル並みに高いってことにな……って、ちょ、ちょっと待ったっ!)
どうしてこんな至近距離で、年齢不詳の俺様王子様と見つめ合っているのか、最初に疑問に思うべきだったことに、いまさら気がついた。
『あの、どう、どう……し、あのっ……な、なぜ……』
どうしてベッドの上で抱き合って眠っていたのか。
昨夜何があったのか訊ねたいのに、動揺と焦りのあまり言葉にならない。
『まずは、シャワーだな。それから毛並みを整えて、食事をして、散歩に行くぞ』
俺様王子様は、人の話を聞かないようにできているらしく、ひとり頷いている。
『け、毛並み? 散歩?』
『ほら、起きるぞ。ハナ』
べつに宣言しなくとも、どうぞ起きてくださいと思ったら、なんとわたしごと起き上がった。
『ひゃっ』
驚き、思わず目の前にあるものにしがみつき……指先に伝わるぬくもりに目を見開き、二人の身体を見下ろし……。
『ぎゃあっ! な、なん、どう、どうしてふく、服を着てないのぉっ!?』
バージンではないけれど、酔った勢いで男性と寝た経験はない。
しかも、コトに及んだ一切の記憶がないなんて初めてだ。
『脱いだから、着ていないに決まってるだろう?』
『どう、どうして、脱いだ……』
『どうしてだと思う? 説明してほしいか?』
思わせぶりな甘い笑みに、体温が急上昇する。
『い、いい……』
『遠慮するな』
『してないっ!』
『言葉で説明するより、実演したほうが早いか』
『しなくていいっ!』
必死に抵抗するわたしを抱きかかえたまま立ち上がった俺様王子様は、バスルームへ直行した。