溺愛音感
「…………」
(それを確かめたかったんだけど……)
(妊娠以外にも気をつけるべき大事なことだけど……)
(こういうことにも慣れているんだろうけど……)
(だけど、手慣れてる感がムカつ……)
(いやいやいや、べつに手慣れてても関係ないよねっ!? わたし!)
「どうした? ハナは、子どもが欲しいのか?」
甘い笑みを浮かべた唇で囁かれ、ジャグジーのお湯を熱湯に変えてしまえそうなほど、体温が上昇する。
「こ、ここここ、子ども……?」
「楽しむだけなら、いくらでも要望には応じてやる。だが、それだけは叶えてやれない」
結婚しても、子どもは作らないということなのだろうか。
そういう選択をする夫婦も中にはいるだろうけれど、松太郎さんが期待しているのはひ孫――『KOKONOE』の後継者となる次世代のはず。
(……なんだか)
何故そう感じるのか、自分でもはっきりとはわからないが、違和感を覚えた。
「どうして?」
「どうしてだと思う?」
(質問に、質問で返さないでよ……)
モヤモヤした胸の内をなんとか言葉にしようと口を開け閉めしていたら、カプリと鼻の頭に噛みつかれた。
「ちょっ……やめ、やめてっ!」
『Mimi……Je t’aime à croquer』
(子猫ちゃん……食べちゃいたいくらい、かわいい)
「た、食べてもおいしくないしっ!」
『Je ne peux pas vivre sans toi……』
(君がいないと生きていけない……)
「いなくても、いままで生きてきたでしょぉっ!?」
(なんなの。暴言吐きまくり、貶しまくりの超絶失礼な俺様はどこへいったのよぅっ!?)
破壊力抜群の甘い笑みと共に甘い言葉を囁かれ、気が遠くなりかけたが、すんでのところで解放された。
「ハナ、全身真っ赤だな? のぼせる前に出るか」