溺愛音感
どこまでもマイペース、人の話を聞かない俺様王子様は、これまたわたしを抱いたまま浴槽から出た。
飾りとしか思えない透明のドアを抜け、パウダールームでバスローブを着せかけられて、洗面台の前に置いたスツールに座らされる。
ご機嫌な俺様王子様の手には、ドライヤーが。
天然パーマでくるくる跳ねる髪は、わたしの中では面倒の種の一つだが、彼にとってはちがうらしい。
ドライヤーで丁寧に乾かし、嬉しそうな表情を隠そうともせず、大きな手で梳いたり、かき回したりしている。
まるで、犬猫にでもなったような気分だ。
「ハナ。どうして下ろしておかない? こっちの方が似合うのに」
「レセプショニストは、髪をまとめるのがルールだから」
「それなら、仕事が終わり次第、解けばいい」
「バサバサするし」
「確かに、栄養が行き届いていないな。ちゃんとサロンで手入れしてもらっているのか?」
俺様王子様は、わたしの傷んだ毛先を見つめて不満そうに眉根を寄せている。
「フリーターだし、そんなお金ない」
鏡越しに見る彼の顔は不満そうだ。
「知り合いのサロンに予約を取り付ける。きちんと手入れしてもらえ。ついでにエステも必要だ。あり得ないくらいに、肌がカサカサだ」
「でもっ」
「見苦しい姿を目にするのは不快だ」
(それなら、目をつぶれば?)
「触り心地も大事だ」
(だったら、触らなければ?)
「それから、もうちょっと太れ。身長差はどうしようもないとしても、思う存分抱けない。それじゃあ、ハナも気持ちよくなれないだろう? 気持ち良くないセックスは、欲求不満を募らせるだけだ」
(だ、誰も気持ちよくなりたいなんて言ってないしっ! 全部自分の都合じゃないのよぉっ!)
強引で、人の話を聞こうとしないその態度に、思わず口から本音がこぼれ落ちた。
「……俺様王子様め」