溺愛音感
喋っている途中で唇を塞がれ、いきなり舌を入れられた。
びっくりして離れようとしたけれど、背中に回った手がそれを許さない。
顔を背けようにも、頬を包んだ手に固定される。
「ふっ……はっ……」
抵抗しなくてはと思うのに、舌が触れ合った場所から蕩けてしまいそうだ。
わざとリップ音を立てながら、軽いキスと深いキスを交互に繰り返し、アンバーの瞳はわたしの反応をいちいち確かめている。
理性を取り戻しかけては再び何も考えられなくなるほどの快感に翻弄され、頭がぼうっとしてきた。
(……わたし……なんで……好きでもないのに……気持ちいいなんて思ってるの?)
お互い、素肌にバスローブを纏っただけ。
そうしようと思えば、いまここで繋がることもできる。
これまで、自分にはないと思っていたもの――欲望の存在をはっきりと感じる。
キスに応え、素肌を滑る手に震える。
(どうしよう……なんだか……)
もう少しで「してほしい」と口走りそうになった時、あっさりキスを切り上げられた。
「今日は予定が詰まっているからな。この辺で止めておく。それで、いったい、何が不満なんだ? 言ってみろ。内容によっては、善処しないこともない」
(な、な、なん………)
「ハナ?」
言いたいことはある。
ありすぎだ。
しかし、何を言っても無駄だと思われる。
俺様王子様のお気に召さない要望は全却下されるのだろうから。
「どうしたんだ? 急に大人しくなって。腹が減ったのか? 今日の朝食は、ハムとチーズのホットサンドにアーモンドと人参のサラダ、パイナップルにカプチーノにするぞ」
さすがセレブは朝食からしてちがう。
豪華なメニューを聞いた途端、ぐうぅとお腹が鳴る。
色気より、食い気が勝った。
「家政婦さんが作ってくれるの? それともお抱えシェフがいるの?」
まだ朝早いけれど、きっとセレブ専用のデリバリーでもあるか、専属シェフなり家政婦さんなりをどこかに隠しているのだろうと思ったら、マキくんは怪訝な表情で驚愕の事実を告げた。
「は? 自分で作るに決まってるだろう?」