溺愛音感
「え……っと……オレサマ……じゃなくて、マキくんが作るの?」
「接待や何だで外食が多くなりがちだから、時間がある時はなるべく自炊するようにしている。スーツやシャツはクリーニングに出すが、洗濯も自分でするぞ? 全部の部屋を掃除するには手が回らないから、週に三日ほど家事代行サービスを頼んでいるが」
(てっきり、執事とか召使いとかアゴで使ってるんじゃないかと思っていたけれど、家事万能の庶民的な俺様王子様だったとは……)
「ハナの好物は何だ? 食べたいものがあれば、作ってやるぞ?」
「おせんべいが好き!」
もしかして、家事万能な俺様なら「手焼きせんべい」も作れるのでは? と期待したが、あっさり裏切られる。
「それは、料理じゃなく菓子だ」
「じゃあ、特に好きな料理はない。食べられれば、何でもいい」
昨夜食べた「ナポリタン」は美味しかったし、美味しいものは好きだ。食べるなら美味しいほうがいいに決まっている。
けれど、「食」に対してどうしても手料理が食べたいと切望するほどの熱意は持ち合わせていなかった。
繊細とは程遠い、ジャンキーな料理で育ったので、日本のコンビニ弁当やカップラーメンになんら不満はない。
しかし、俺様王子様にとって「食」は重要らしかった。
「食べられれば何でもいいだと? そんなことを言っているから、痩せすぎなんだ! 今日から一日三食。きっちり栄養のあるものを食べて、体重を増やせ!」
「そ、そう言われても……わたし、料理できないし……」
そもそも、料理を作れるような住環境で育っていないため、お湯を沸かす、食器を洗うといった用途以外でキッチンを使うことは滅多になかった。
「俺が作ったものを食べればいい」
「いいの?」
「餌を用意するのは飼い主の義務だ。おやつに『おせんべい』も買ってやる。手焼きではないが、昔から贔屓にしているXXX店のものは、美味かった記憶があるな」
「XXX店っ!? あそこのぬれおかき、一度食べてみたかったの! でも、ちょっと高くて手が出なくって……」
「ほかにも有名どころのものを取り寄せてやろう」
「本当っ!?」
(ここに住めば、手料理が食べられる。しかも、高級おせんべい付きなんて、かなり魅力て……はっ! まだ餌も貰っていないのに、餌付けされるところだった!)