溺愛音感
「あ、あの、でも……」
「諸事情あって、しばらくは在宅で仕事をする予定だったし、ちょうどいい」
「ど、どういう? つまり……?」
「ひとりで留守番させずに済む」
屈託のない笑みを向けられ、胸がきゅうっとなった。
口は悪くても、ヒトをちゃんと慈しみ、優しくすることができる人。
松太郎さんも言っていた。
家族には、暑苦しいくらいの愛情を注ぐ、と。
お風呂で洗われ、毛並みを整えられ、その言葉に嘘はないと思い知った。
わたしを洗っている時、とても大事なものに触れるように、指や腕を丁寧に扱ってくれた。
暴言毒舌満載だけれど……悪い人ではない、と思う。
ただちょっと……いや、かなり「俺様」なだけで。
(三食おせんべい付き。……でも、俺様)
(大きなお風呂……家事代行サービス付き。……でも、婚約どころか同棲)
(九十九曲分の期間限定。言わなければ、音羽さんにはバレないかも……? でも、お見合いが破談にならない危険がある)
(触られるのはイヤじゃない。キスされるのもイヤじゃない……エッチは……記憶がない。……でも、理性はちゃんとありそうだ)
(……でも……でも……でもっ)
野良犬のままでいい。
そう思っていた。
けれど……
無意識に、尻尾が揺れてしまっているような気がする。
「ずっと一緒だ。寂しくないぞ」
好きじゃない。
「嬉しいだろう? ハナ」
でも、嫌いじゃない。
「う…………」
勝手にぽろりと口からこぼれた言葉。
「……嬉しい」
言ってしまってから、はっとした。
(うわぁぁぁっ! な、何言っちゃってるのぉっ!? わたしっ!)
「そうか」
慌てて取り消そうにも、あまりにも嬉しそうな顔で頭を撫でられては何も言えず……。
こうして、手料理とおせんべい、そして家事代行サービス付きに釣られたわたしは、俺様王子様のイケメン社長(毒舌)に飼われることになったのだった。