溺愛音感


(ますます……謎が深まるんだけど)


一緒に過ごせば過ごすほど、俺様王子様のいろんな顔を見せられて、わからなくなる。

この関係につけるべき名前が、見つからない。

九十九曲を弾き終わるまでには、答えが見つかるだろうか。



それとも、

見たくないから、答えがわからないフリをしているだけなのか。



いずれ終わる関係なら、わざわざ始める必要はない。
知りたい気持ちを満たしたところで、得られるのは一時の満足と虚しさだけだ。

それでも知りたいと、近づきたい思う気持ちは、日々膨れ上がっていく。

ピアノに合わせてヴァイオリンを弾いていない時も――。




音が消え、沈黙が落ちる。

動けずに立ち尽くすわたしの上に、キスが落ちた。



「ハナ。何を考えている?」



重ねられた唇が離れるのを追いかけて、本音が口を突いて出た。



『Curiosity killed the cat……』



あっという間にわたしを手懐けた人は、余裕たっぷりの笑みと共に後を続ける。



『but satisfaction brought her back』



「とは言え、ハナは犬だから当てはまらないな」

「わたしは、犬じゃない!」


なし崩しで犬扱いを受け入れているが、たまには主張しておかないと、そのうち本当に首輪を着けられそうだ。


「犬は、自分のことを人間だと勘違いすることもあるらしい」

「…………」

「ハナが犬でも人間でも、差別はしない。同じようにちゃんと世話をしてやるから、拗ねるな」

「拗ねてないっ!」

「とりあえず、シャンプーの時間だ」

「じ、自分で出来……」

「言うことを聞かないと、おやつは抜きだぞ。ちなみに、ネットで取り寄せた『手焼きせんべい』が届いた。米にこだわり、炭火で焼いた逸品だ」

(手焼き……炭火……こだわりのお米……)


おせんべいにつられ、優しそうな笑みにつられ、差し出された手に手を載せた瞬間、捕獲されていつものように担がれる。


「うひゃあっ」


マキくんは、何かを確かめるように担いだわたしの身体を揺すり、呟いた。


「あと……二キロといったところか」

「え?」

「餌をやり、世話をして、一番美味しく育った時に食べる。これぞ、究極の時給自足だな」


< 69 / 364 >

この作品をシェア

pagetop