溺愛音感
(マキくんのお母さんって、わたしのお父さんみたいに、変わった人なのかな……?)
「ハナ」
「ん……っ!」
呼ばれて顔を上げたら、キスが降って来た。
「ちょ、ちょっと、マキくんっ……」
イヤではない。
むしろ、気持ちよくて困る。
このまま流されてしまいたい。
けれど、いつもとちがう乱暴なキスは、欲情しているからではなくて……何か忘れたいことがあるからではないかと思った。
「マキくん、どうしたの?」
「……どうもしない」
目を伏せたまま、再びキスでわたしの声を奪おうとした顔を思い切り押しやった。
「何をするんだ、ハナ!」
ようやく目が合ったので、すかさずその頬を両手で挟み込む。
マキくんは、顔を背けることができないため、目を逸らし、伏せた。
(……強情だなぁ)
プライドが高く、頭のいい俺様には、策を弄すれば弄するほど逆効果。
それとなく匂わせるとか。
理屈を並べ立てて追い詰めるとか。
そんな面倒なことはすっ飛ばし、直球で訊ねるのが手取り早いとわかるくらいには、一緒にいる。
「……寂しいの?」
ぐっとへの字に結ばれた唇が、答えは「イエス」だと言っていた。
いわゆるセレブの家庭がどんなものなのかは知らない。
けれど、普通の兄は、「恋人」ではなく「妹」の写真を大事に持っていたりはしないんじゃないかと思う。
「寂しくなどない。長い間、離れて暮らしていたし、蓮はどうせ事実上婿入りするようなものだし……」
「でも、人妻になるんだよね?」
「…………」
素直になれない俺様王子様は、わたしの肩に額を落とした。
広い背中を擦りながら、確信する。
(なるほど…………シスコンか)