溺愛音感
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シスコンの発作を起こしたマキくんを宥めるのに、思いのほか時間がかかり、駅前の広場に着いたのは演奏が始まる十五分前だった。
(それにしても……落ち着かないんだけど)
通りがかる人や待ち合わせをしている人たちの視線が突き刺さる。
横にいるマキくんのせいだ。
濃紺のセットアップにオフホワイトのパーカーとスニーカー。
カジュアルな装いでも砕けすぎにならず、セレブな雰囲気がどことなく漂う。
通り過ぎ、わざわざ彼を振り返る女性も少なくない。
(外見だけなら、セレブな王子様だもんね。中身はぜんぜんちがうけど)
俺様で、重度のシスコンで、お見合い相手とはいえ、フリーターを拾って飼う変わり者。
そんな人が社長で、会社は大丈夫なのだろうか。
とても心配だ。
(まあ……仕事している時は、マトモなのかもしれないけど……)
家の中を移動する時でも、ラップトップもしくはタブレットにスマホは手放さない。
電話をかけながらメールに返信、書類をチェックしながらWEB会議をこなす。
数ケ国語を自由自在に操れ――もちろん会話だけでなく読み書きもできる。
その証拠に、部屋にある本は各国言語が入り乱れているし、わたしをからかう時には日本語以外の言語を使ったりもする。
これまでの傾向からすると、口説き文句的な甘い言葉はフランス語、音楽関連の言葉はイタリア語、怒っていたり、議論をふっかけたい時には英語、俺様発言は日本語のようだ。
そして、料理する時も一分一秒を無駄にしない。
出来上がりのタイミングに合わせて、魚や肉を焼いたり煮たりしながら、お味噌汁にその他のおかずを同時進行で作ってしまう。
まるで超ハイスペックのコンピューター。
(頭の中を一度覗いてみたい……。俺様回路とかあるのかな?)