溺愛音感


そんな俺様王子様は見られることに慣れているのだろう。
周囲の視線を気にする様子は皆無。
わたしの手をしっかり握っている。

……が、それについては何やら不本意そうだ。


「散歩を楽しむためにも、首輪とリードは必須だな。ハナに似合うものをオーダーメイドしようか……」


真顔でそんなことを言われたが、もちろん聞こえないフリをする。


「思った以上に人出があるな……」


大勢の人が行き交う駅前広場には、夜よりも多くのパフォーマーが出没していた。


「マキくん。ここって、バスキングしてもいい場所なの?」

「ああ。数年前に行政側が駅前広場限定で、パフォーマンスを許可することにしたんだ。それまで、パフォーマーたちは主に繁華街で活動していた。おそらく、通行の邪魔、営業妨害だと苦情が多く寄せられて、無視できなくなったんだろう」

「もしかして……お金とかライセンス、必要?」


先日、思い付きでいきなり路上演奏をしてしまったが、海外では路上演奏のできる場所を限定するだけでなく、ライセンス制にしたり、オーディションを実施して、一定の基準以上の実力がない場合は演奏を許可しない都市もある。


「いや。そこまで厳しくはしていない」

「そっか」


違法行為ではなかったと知って、ほっと胸を撫で下ろす。


「おい、ハナ。あれがそうじゃないか?」


マキくんが顎で示した先には、譜面台を設置したり、音出しをしたりしている一団がいた。
通行人にチラシらしきものを配っているのは、美湖ちゃんだ。


「あ! ハナさーんっ! 社長ぉーっ!」


彼女は、わたしたちに気がつくと、大きく手を振り回しながら駆け寄って来た。


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