溺愛音感
ハナ、デートする②
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約一週間ぶりの『Adagio』。
訪れたわたしたちを見て、マスターは目を丸くした。
「これはまた……珍しい面子でのお越しだね?」
「申し訳ない、マスター。こいつがどうにも離れなくって……」
マキくんは、腰にしがみついているガタイのいい青年(バカヨシヤ)を小突きながら、マスターに詫びる。
「いや、ま、ヨシヤくんも常連さんだから、それはいいんだけど……」
「ほんと、すみません……」
「いやいや、美湖ちゃんのせいじゃないでしょ。こんな時間じゃもう他のお客さんも来ないだろうし。ま、とりあえず、座って」
どうやら、バカヨシヤも美湖ちゃんもここの常連らしい。
只今の時刻は午後九時。
平日ならまだしも、日曜のこの時間帯に来るお客さんが少ないのは、どこのバーや居酒屋でも一緒だと思われる。
マスターは、そそくさと店の扉に「Closed」の札をかけた。
「ハナちゃん。元気にしてた?」
「はい」
「柾くんとは仲良くしてる?」
「……犯罪だっ!」
カウンターに突っ伏していたバカヨシヤが突然顔を上げ、叫ぶ。
「うるさいっ!」
マキくんが、その後頭部を容赦なく叩いた。
「いってぇ……って……俺、あれ? ここ、どこ? え? もしかしてAdagio?」
叩かれた衝撃で覚醒したヨシヤは、キョロキョロと辺りを見回す。
「もしかしなくても、Adagioだよ。ヨシヤくん」
にっこり笑うマスターを見て、バカヨシヤはおずおずと隣の美湖ちゃんを振り仰ぎ、小さな声で呟いた。
「いったい……何がどうして……こうなった?」