溺愛音感
久しぶりに人前でヴァイオリンを弾いて、楽しいと思った。
だからこそ、怖くなった。
――夢見ることを諦められなくなるのが。
これで最後にしようと決めて路上で演奏したあの夜から、諦めようとしていたはずなのに、どんどん事態は逆の方向へ転がり続けている。
諦めれば、もう苦しい思いをしなくても済む。
でも、諦められない。
誰かに、聴いてほしい。
けれど、聴かれるのが怖い。
いつか、乗り越えられるのか。
もう一度、プロとして大勢の人の前で演奏できるようになれるのか。
わからない。
自分が何を望んでいるのかも、わからない。
どうすれば答えが見つかるのかも、わからない。