溺愛音感


宥めるように髪を撫でられ、瞼が下がる。

本能が、教えていた。

信頼していいのだ、と。
このひとは、わたしを傷つけたりしない、と。

だから、安心して身を任せていい。


「ハナ? 眠いのか?」

「ん……早く帰らないと、弾けないかも……」


目を開けているのも、話すのも辛い。


「今日の分は明日弾けばいい」

「でも……」

「そんな状態で弾けないだろう?」


確かに、弾いている最中に寝てしまいそうだ。

マキくんに抱えられたまま椅子から下り、支えになるものを求めてその腕に縋る。

酔いではなく眠気のせいで千鳥足になりながら店を出ようとした背に、呼びかけられた。


「ハナちゃん! ヨシヤくんのこと……嫌いにならないであげてね? デリカシーに欠けるけれど、何事にも一生懸命で、まっすぐで、情に厚い子なんだ」


一緒に演奏したから、わかる。
バカヨシヤは、真面目で、熱くて……いいひとだ。

わたしはコクリと頷いたが、横にいるマキくんは鼻で笑った。


「要するに、暑苦しいヤツってことだな」


その言葉を聞いたマスターは、呆れ顔で首を振ってひと言。


「ヨシヤくんも、それだけは柾くんに言われたくないと思うよ」

「…………」


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