溺愛音感
「……そうなの?」
「そうですっ! 恋愛だって一緒です! 王子様が通りがかるのを待ってるだけじゃダメなんですよ! 自ら狩りにいかないとっ!」
「か、狩り……?」
「だから、合コンしましょう!」
ずいぶん、論理が飛躍している。
とりあえず、「合コンって何?」と問い返そうとして、上はブラジャー下はショーツ姿の美湖ちゃんをまともに見てしまい、慌てて目を逸らす。
(うわぁ! 美湖ちゃんっ! せめてスカート脱ぐ前に何か穿いてぇー!)
いくら同性だって、Tバックのお尻を目にしたら、ドギマギする。
むしろ、素っ裸よりも動揺する。
「ハナさんに合いそうな人を取り揃えますから、任せてください! どんな人が好みですか? とにかく優しい人ですか? それともツンデレですか? 容姿にはこだわりないですか? イケメンじゃなきゃ受け付けないですか?」
「べつに好みって言えるほどのものはないけど……」
張り切る美湖ちゃんに問い詰められて思い浮かべたのは、なぜか元婚約者ではなく、暴言吐きまくりの失礼極まりない「イケメン」だった。
元婚約者らしき人物に遭遇した動揺は、その後の超絶失礼な「イケメン」のおかげで払拭されたが、口紅の色にまで文句をつけられる筋合いはないと思う。
自分でも、ピンク系のほうがしっくりくるのはわかっている。
でも、十代にまちがわれる童顔をちょっとでも大人に見せたくて、シックな赤を選んでいるのだ。
確かに、お肌や髪の毛のお手入れはずうっとさぼっているので、ガサガサのパサパサ。
制服は既製品の貸与で、わたしに合うサイズがそもそも用意されていなかった。
そのため、ツーサイズ大きなものを着ているから、スカートはウエストを折っていても長すぎるし、ジャケットの袖も余る。全体的にブカブカで、身体が泳いでしまう。
見苦しいとまではいかないと思うけれど、似合っていないのは事実だった。
(それにしても、礼儀正しい日本人というイメージをぶち壊しにしてた。いったい、何者なんだろう?)
「そう言えば、今夜のコンサートに社長来てましたね? お話できました?」
「へ? 社長?」